Bash道ではこれまで、自分の手でスクリプトを書き、仕組みを理解して使いこなす力を重視してきました。しかし実務の現場では、
- 仕様が曖昧なままスクリプトを書く
- 前任者のスクリプトにドキュメントがない
- 保守がしづらい
といった “Bash あるある” に悩む機会が多いのも事実です。
今回は、こうした課題に対して AI がスクリプト開発プロセス全体をサポートしてくれるツール「Kiro」を取り上げます。

Kiro は、AWS が提供する AI 開発支援ツールで、「仕様書作成 → 設計 → 実装 → 修正」の全工程を自然言語で進められるという特徴があります。
この記事では インフラエンジニア・Bashスクリプト開発者の視点で、Kiroの実力をわかりやすく紹介します。
Kiroとは?
“自然言語で仕様→設計→実装まで完結する AI 開発ツール”
Kiro は VSCode ベースの AI 開発支援ツールです。
特徴は以下の通り
- 要件を文章で伝えるだけで 仕様書(Spec)を自動生成
- 仕様書をもとに 設計書(Design)まで自動生成
- 設計を踏まえて コードを実装
- 指示すれば 修正や改善も自動的に反映
- 既存スクリプトを解析してドキュメント化も可能
特に Bash や Shell スクリプトのような
「誰かが書いたけど、誰も知らない」
というブラックボックスを扱う作業で真価を発揮します。
1. 仕様書(Spec)を自動生成:曖昧な要件を構造化
Kiroの大きな特徴は Spec mode。
例えばこんな曖昧な指示でも
特定ディレクトリを調べて、S3 にアップ済みのファイルなら削除するスクリプトを作りたい
Kiroは以下のように EARS記法で仕様を整理します
- WHEN:いつ
- IF:どの条件で
- THEN:何をする
これにより、曖昧な要件 → 構造化された仕様書へと変換されます。
さらに、
・パラメータを引数にするのか
・configファイルで管理するのか
といった点も自然言語で指示すれば修正可能。
人間のレビューとAIの出力を組み合わせる
“Human in the loop” のワークフローが自然に成立します。
2. 設計フェーズも自動化:ファイル構成・セットアップ手順も入る
仕様書が固まったら、Kiroが今度は 設計書を自動生成します。
含まれる内容の例
- 作成されるファイル一覧
- パーミッションや所有者
- セットアップ手順
- cron の登録方法
- 手動テスト手順
これが地味に便利で、
インフラの運用指標となる “実務レベルの設計書” がそのまま手に入る のが強い。
Bash道でも扱っている以下のようなテーマと相性抜群です
- ログローテーション
- バックアップスクリプト
- 定期実行ジョブ
- 監視スクリプト
3. スクリプトも自動生成:ベストプラクティスが標準で適用される
設計まで整うと、Kiroはそのままスクリプト実装を行います。
ここで特にメリットが大きいのが 品質の底上げ。
自動生成時点で以下のような対策が盛り込まれます
- set -euo pipefail
- 例外処理
- ログ出力関数の実装
- 危険コマンドに対する安全対策
- 変数のスコープ適切化
- ハードコードの排除
- 設定ファイル化
- 日本語コメントの付与(指定可能)
“動くけど怖いスクリプト” が “運用できるコード” になる感覚です。
4. 既存のスクリプト解析も強力:README.md を自動作成
Kiro の強みは新規スクリプトだけではありません。
既存スクリプトに README を自動生成してくれるため、
「前任者が書いた謎スクリプト」の調査に圧倒的に強い。
Kiro は以下まで指摘してくれます
- 未使用関数・未使用変数
- 危険な rm -rf
- コメント不足
- 平文パスワード
- グローバル変数の乱用
- ハードcodedパス
- エラーハンドリングなし
- 非効率なループ構造
さらに、
改善点の優先度まで提案されます。
これは Bash の保守で本当に役立つ機能です。
5. Bash × Kiro の最も大きなメリット
まとめると、Kiroを使うことで Bash スクリプト開発は以下のように進化します。
- 要件を自然言語で書けば仕様書ができる
- 設計書まで自動化され、実務レベルのドキュメントが揃う
- 実装はベストプラクティス込みで自動生成
- 修正や改善も自然言語で頼める
- 既存スクリプトの解析も強力
- 保守性が大幅に向上する
Bash の原理原則を理解することはもちろん大切ですが、
日常業務での「品質の安定」と「ドキュメントの確保」はAIで補う時代に入っています。
まとめ : Bashを書く人こそ Kiro を使うべき
Bash スクリプトは業務の裏側で長期間動き続ける存在です。
特にインフラ領域では
「動いているから触らない」
というスクリプトが増えがちですが、それはリスクになります。
Kiro を使うことで、
- 曖昧なスクリプトが明確に
- 古いスクリプトが安全に
- バラバラな仕様が整理され
- 保守性が上がり
- ドキュメントが揃い
- 安心して改善できる
という環境が整います。
AI にスクリプトを “書かせる” のではなく、
AI と一緒に仕様を組み立てる
という新しいワークスタイルが Bash にも浸透しつつあります。

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